切削シミュレーションを現実の問題に対して適用可能とすることを目的として研究を行った。切削シミュレーションを行うには、材料特性を入力しなければならないが、切削という高ひずみ速度、高温、高圧という条件下で材料の単軸変形特性は、現在のところ実験で求める以外に方法がない。その材料特性を実験ではなくミクロ理論から導きだし、まさに計算機内のみで切削の諸現象を予測し、バーチャルマシニングの実現を試みた。 まず逆解析的手法により切削試験から材料特性を推定する試み、そして走査型トンネル顕微鏡による観察に基づいた分子動力学計算の試みを行った。ミクロ理論の有効性は確認されたが、それを現実的問題に適用するには問題点が多いことが明らかになった。 一方、切削シミュレーションは、動的陽解法という手法を用いれば、塑性代変形、熱伝導問題などの3次元解析を有限要素法で実現可能であることが明らかになった。すなわち、動的陽解法を用いれば、現実と同レベルの旋削過程がシミュレーションできること、そしてさらにチップブレーカ工具による切削解析にも有効であることを示し(論文掲載予定)、連続体力学的手法による現実的3次元解析を実現した。これは、切削シミュレーションの現実的実用化の第1歩となるものと思われる。 本研究によって、ミクロな部分においては、量子論に基づいて原子間力を評価し、分子動力学計算が有効であることがわかり、マクロな部分では、動的陽解法によって現実的3次元解析が実現できることを示すことができた。今後の課題は、そのミクロとマクロの間の橋渡しを体系化することで、それによってバーチャルマシニングの実現が可能になると思われる。
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