研究概要 |
本研究は浸炭歯車の歯元に加工した微小切欠きで,材料中に含まれる潜在欠陥を模して表現し,疲労強度を律する欠陥の影響を切欠き寸法を用いて定量化することを目的とする. 以前の研究で,深さ20μmよりも大きい場合には,切欠き深さの増加に伴い,強度が低下するけれども,20μmよりも小さい切欠きは,破壊の起点にならず,強度に影響を及ぼさないことがわかっている.これを限界切欠き深さと名付けた.ところで,疲労過程をき裂生成過程とき裂進展過程とに分けた場合に,人工切欠きは,主にき裂生成過程に作用して強度低下を招くと考えられる.そこで,疲労試験時にアコースティックエミッション(AE)計測を行い,き裂生成過程と進展過程との分離,並びにき裂生成に必要なエネルギーの定量化を試みた. その結果,疲労負荷開始直後(ステージ1),き裂が生成して浸炭硬化層を通過するとき(ステージ2),折損直前(ステージ3)において,顕著なAEが観測されることが知られた.切欠きがある場合に,ステージ2からステージ3までに必要な負荷繰り返し数に違いはないが,ステージ1からステージ2に至る繰り返し数が短縮される傾向にあることが知られた.また,ステージ2において計測されるAEエネルギーがき裂生成に必要なエネルギーに比例すると考えられる.切欠きがき裂生成を促進するとの立場に立てば,切欠きによってステージ2でのAEエネルギーが減少することが予想されたが,現時点では切欠きの有無によるAEエネルギーに大きな差異は見られていない. 今後は超清浄鋼により歯車を製作して,限界切欠き深さを知る実験を行い,潜在欠陥の減少による強度向上と限界切欠き深さとの関係を定量化する予定である.
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