研究概要 |
AllenとDrauglisが提案したorderedliquidモデルをはじめとして,境界潤滑膜と液晶との類似性は,これまでも複数の研究者によって指摘されてきた.一方で,固体表面のごく近傍の液晶分子は,固体表面の影響を受け,その配向が拘束されることが知られている.本研究では,表面束縛と呼ばれるこの現象と,境界潤滑に効果的とされる表面配向吸着膜との関連に留意して,表面束縛とせん断の影響を同時に受ける液晶分子の配向を,フーリエ変換赤外(FT-IR)分光光度計を用いてin-situ 観察し,そのダイナミクスに関する知見を得ることを目的としている. まず,FT-IR分光光度計を用いた分子配向測定の定量化の方法を確立するために,比較的その挙動がよく知られている,電場存在下におけるネマチック液晶の分子配向の測定を行った.表面束縛を平行配向とした厚さ2μm〜10μmのセルにペンチルシアノビフェニル(5CB)を封入して,0V〜30Nの電場を印加し,表面束縛方向に平行な偏光赤外光と垂直な偏光赤外光を照刺したときの,吸収スペクトルを測定した.その結果,CN結合の吸収ピークから分子配向の情報が,CH結合の吸収ピークから膜厚の情報が得られることが明らかとなった. 次に,液晶薄膜にせん断揚および電場が存在する場合の分子配向を測定するために,表面束縛の状態,膜厚,すべり速度,印加電圧を独立に設定できる装置を試作し,同様な実験を行った.表面束縛は平行配向,垂直配向の二通り,膜厚は4μm,8μm,12μmの三通り,すベリ速度は0.1μm/S〜4000μm/S,印加電圧はOV〜4Vとした.その結果,表面束縛は束縛方向に,せん断場はすべり方向に,電場は電場方向に分子を揃えようとする効果を持つことが明らかとなり,それらが競合する状態での分子配向を定量的にとらえた.
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