研究概要 |
低圧回転気流に生じる分岐現象の代表例として,中心軸回りに一定速度で回転する二重円筒形の凝縮相の間に生じるクエット流を取り上げ,分子気体力学(気体論)に基づく解析・数値解析によって,蒸気の希薄度の全ての範囲にわたる振舞いを調べた.希薄度が十分小さければ,軸方向・周方向に一様の流れであっても分岐が生じることをはじめ,次に述べる結果が得られている. 1. 流体力学方程式に基づく結果.上記の問題(蒸発・凝縮を伴う二重円筒間クエット流)を分子気体力学の漸近理論の成果を用いて解析し,希薄度が0の(古典流体力学的)極限における振舞いを明らかにした.旧来の漸近理論の成果に基づく解析では得られる(分岐)解は蒸発・凝縮の向きが異なる2種類になるが,近年の成果[Y.Sone,S.Takata,H.Sugimoto,Phys.Fluids8,3403(1996)]を用いると,上述の分岐が生じる全ての範囲にわたって蒸発・凝縮が無い3種類目の流れが存在することも明らかになった. 2. 気体論方程式の直接的数値解析の結果.申請者が以前開発した高精度差分法を用いて有限の希薄度の流れの振舞いを精密に調べた.得られた解は,蒸発・凝縮の生じる2種類だけであり,両者が希薄度の増大に伴って接近し,一方が消失する様子も求められた. 本年度の成果を基に,今後は流れの安定性の解析を進める予定であるが,そのためには非定常・多次元流の精密な解析方法を開発する必要がある.数値解析の面では,並列ベクトル計算機を用いたより効率的な差分法・DSMC法の開発を進めているほか,漸近理論の面では高精度の流体力学的方程式の導出も進めている.
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