研究概要 |
まず、既に提案されている非平衡分子動力学法の理論的基礎を明確にするために,それを用いる水分子系の微視的構造と熱輸送過程の解析を行なった.現時点でSPCポテンシャル関数が計算負荷の点,液体状態の動径分布を適切に表現すること,内部自由度を考慮する場合に実績があること,などから最適であるとした.2つの等温相を有する不均質なモデルでは一定の温度勾配を設定することが難しいこと,修正運動方程式を用いる均質なモデルでは温度制御をすることで一方向の熱流束を作り出すことができることを明らかにした.同時に,電荷間のクーロン相互作用のカットオフ距離および形状が系のポテンシャルエネルギーに大きく影響し,結果として熱伝導率の計算値の評価を難しくすることを明らかにした.また,摂動力の存在で水分子系の呈する構造および水素結合の方向に秩序が生じることを明らかにした.つぎに,固体表面に液体分子が接した系の分子動力学解析を行ない,構造および熱伝達の分子的メカニズムを検討した.固体表面に沿う液体の流れを生じさせる自由流出境界条件と確率的流入境界条件の組合せによって,局所的な圧力勾配により流れが駆動されるという,非平衡系を扱うに適した分子動力学計算においては画期的な境界条件を提案し,アルミニウム結晶表面と窒素分子の系に適用した結果,熱流束の生成および相変化過程などに関して良好な結果を得て,その有効性を示した.その際,可視化ソフトウェアを用いて動画を作成し,現象の理解に役立つことを明らかにした.また,一般的な界面に適用範囲を広げることが可能な,ポテンシャル場として固体壁の影響を与えるモデルを構築し,壁面近傍の水分子の運動特性・熱輸送特性および構造への影響が比較的顕著であることを明らかにした.第2年度には第1年度に得られた知見をもとに,非平衡系の組合せによる大規模計算のためのモデル構築を行なう.
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