熱流体現象の解明に、分子シミュレーションと統計物理学的解析応用する研究のうち、本年度は次の研究を行った。(1) 過飽和蒸気からの液滴生成の分子機構:分子動力学計算により、アルゴンおよび水についての均一核生成過程を追跡し、核生成速度を古典理論と比較すると共に、核生成にともなう自由エネルギー変化を求めた。得られた核生成自由エネルギーは古典理論の予測とは大きく異なり、また物質の違いに大きく依存していた。この結果は、数十分子程度の小さい臨界核における連続体的取り扱いの破綻を示唆している。自由エネルギーの理論値と計算値の違いにより、核生成速度はアルゴンでは予測よりも2桁大きく、水では3桁小さくなった。(2)既存核存在下での液滴生成の分子機構:イオンをモデル化した異質核からの核生成過程を、Lennard-Jones流体の分子動力学計算により追跡するとともに、グランドアンサンブルモンテカルロ法によりその自由エネルギーを求めた。詳細は解析中であるが、過飽和度が小さく既存核の影響範囲が均一核生成の臨界核サイズを超えない場合は、自由エネルギーが極小となるサイズにおいて核の成長が途中で止まることが観測された。(3) 過熱液体中での気泡生成の分子機構:アルゴンおよび水について、過膨張下での気泡生成の分子動力学計算をおこなった。相図における熱力学的安定限界(スピノーダル曲線)よりも小さい過熱度において、有限の待ち時間(10〜200ピコ秒程度)で圧力の回復と気泡核の生成が観測された。待ち時間から見積もられる核生成速度は古典核生成理論の予測に比べて10〜20桁も大きい。
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