熱流体現象の解明に、分子シミュレーションと統計物理学的解析を応用する研究のうち、本年度は次の研究を行った。(1)過飽和蒸気からの液滴生成の分子機構:イオンをモデル化した既存核からの核生成過程を、Lennard-Jones蒸気ならびに水蒸気を用いた分子動力学計算によって追求した。Lennard-Jones蒸気については、グランドアンサンブルモンテカルロ法による自由エネルギー評価を併せておこない、既存核が自由エネルギー障壁を引き下げるために過飽和度が小さい場合には自由エネルギー極小にトラップされる結果、クラスター生成が停止することが見いだされた。水蒸気については、過飽和度が大きい場合にはイオン電荷の符号にはよらず急速なクラスター成長が観測されたが、過飽和度が小さい場合に水和クラスター構造の違いによってカチオン(カリウムイオン)の場合は成長が途中で停止するのに対し、アニオン(塩化物イオン)ではゆるやかな成長が継続することが見いだされた。 2)変動圧力場中の気泡振動:ソノルミネセンスやキャビテーション機構の解明のために、大規模系の分子動力学計算をおこない、液体中の気泡が圧力場の変化によって崩壊する過程を追跡した。主として気泡内の分子挙動から、気泡内温度の上昇や気泡界面での物資移動(蒸発・凝縮)およびエネルギー移動(熱伝導)の定量的評価をおこない、断熱圧縮性からのずれを求めることができた。併せて、気泡崩壊の直後に、外側の流体に向けて衝撃波が発生・伝搬する現象が見いだされた。従来の数値流体力学との間のミクロ-マクロ接合を行うためにはさらに大きなシステムの計算が望まれるが、熱流体解析への分子シミュレーションの適用可能性を示すものである。
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