研究概要 |
本研究は,原生動物の持つ「負の走電性」を利用し,電場により原生動物の行動を自在に制御することにより,マイクロマニピュレータとして原生動物を工学的に利用しようとするものである.平成10年度は,最初に,電場の変化に対する原生動物(ゾウリムシ)の反応行動について調べた.その結果,ゾウリムシは,電場の印加に対して,陰極へ向かって泳ぐ/泳がないのON-OFF的な関係があり,電位勾配の大きさによって遊泳速度を制御するのは困難なこと,0.2V/mm以上の電位勾配の印加が必要なこと,ゾウリムシは螺旋状に遊泳するが,電位勾配が大きくなるほど螺旋の振れ幅が大きくなることがわかった.また,ゾウリムシに2時間以上電場を印加しても,電場の印加自体は生理活性に悪影響を与えないが,電気分解により溶液にpH変化が発生すると,ゾウリムシの生理活性は急速に低下することがわかった.以上の基礎特性をもとに,数多くの行動制御用プールを試作し,実験を行った結果,上部から映像を撮影しながら行動制御を行うには,映像のフォーカスがずれないようにプールの深さを浅くすることが要点であることが明らかになった.それをもとに炭素製の平行電極(電極間隔4mm)を4対,正八角形状に並べた,厚さ0.2mmの行動制御用プールを作成し,上部から撮影した映像をもとに,パソコンにて電場を自在に変化させ,ゾウリムシの行動を自動制御するシステムを試作した,オペレータの手動操作による実験の結果,ゾウリムシを任意の方向に制御すること,小さな物体をゾウリムシによって押して移動させるマニピュレーションが可能なことを,実験により確かめた.また,コンピュータにより,円や8の字など急旋回を含まない経路に沿ってであれば,コンピュータにより,行動を自動誘導制御することに成功した.
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