研究概要 |
本年度は,アリやゴキブリのような6本足の昆虫が,歩行速度により歩行パターンを変化させることに注目し,歩行パターンとエネルギー効率の関係を調べた.手法としては,6本足の力学的モデルを構成し,単位距離の移動に必要となるエネルギーを最も少なくする歩行パターンを数値計算により見積り,実際の昆虫の歩き方との比較検討を行った. 昆虫の歩行パターンの特徴としては,歩行速度が速くなるにつれて,(a)脚の動きの周期は短くなるが,(b)遊脚相の時間はほぼ一定であり,(c)同時に地につく脚の本数は減っていく,(d)歩行パターンは相転移的に変化することがある,といった特徴が報告されている.計算の結果,これらの特徴はいずれもエネルギー効率の最適化に基づいた結果であることが明らかになった. 移動時の消費エネルギーは主に,体を動かすための機械的な仕事と,関節トルクに応じて生じる熱エネルギーの散逸の和で表現される.機械的仕事と,体を支えるために必要な関節トルクに伴う熱散逸のバランスで,最適な歩行パターンは決定されるが,このバランスが移動速度によって変化するために,歩行パターンの変化が生じることも明らかになった. さらに,生体が歩行などの運動を実現するための,神経系による学習制御システムに関する考察を行った.歩行などの基本的な運動の指令は,神経振動子結合系で発生していることが生理学実験によって知られている.そこで,神経振動子結合系で物理系を学習制御を行うための数理モデルを考察し,単純な相関学習によって,望ましい運動を獲得できることを明らかにした.
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