研究概要 |
本研究では,神経回路網を備えた歩行モデルを導入し,身体内部の機能障害と異常歩行との関係および異常歩行の発生メカニズムの力学的解析をめざす。特に機能障害としては,これまで工学が全く着手しなかった「拘縮(関節運動範囲の減少)」を取り上げる。本年度は骨や筋に関する形態学の知識を手かがりとして「拘縮」の機構学的な記述に着手した。拘縮は,特殊な疾患を除いて,病気の治療や高齢化による安静不動が継続した結果,関節運動の範囲が狭くなる障害をさす。病理学的には関節自身の変性と筋短縮の二つに大別される。筋には二つの関節を同時に運動させる二関節筋が存在するため,拘縮による関節の運動範囲への影響は隣接関節の角度に依存しない場合と,これに依存するものがある。股・膝関節の運動範囲は関節自身の可動域と大腿直筋,ハムストリングスの筋長との相互作用によって決定され,6種類の肢位における股関節と膝関節角度を直交座標平面にプロットした六角形で表現される。また,膝・足関節では二関節筋が腓腹筋のみなので,それらの運動範囲は5種類の肢位における膝関節と足関節角度の五角形で表現される。まず,8〜14歳の健常男子35名について関節角度の計測を行なった。計測は従来の臨床検査法とは異なり下肢の股・膝・足関節について隣接関節の角度を規定した状態で行なう。その結果,股・膝関節の運動範囲は六角形,膝・足関節は五角形で表現でき,本モデルの妥当性が確認された。また健常者においても,年令に依存した股関節最大屈曲の減少,ハムストリングス・大腿直筋の短縮が認められた。次に,同様の計測を脳性麻痺児7名について行なった。その結果,まず,脳性麻痺においても,関節可動域は本研究で提案したモデルによって表現できることが明かとなった。また,脳性麻痺の関節可動障害は特に股関節の屈曲,伸展の制限,および下肢の全ての二関節筋に短縮であることが明らかにされた。
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