研究概要 |
本研究者は超伝導材料の高臨界電流密度化(高Jc化)を目的として、超伝導体内部に人工的にピンニングセンターを導入する手法を用いた新しい材料の研究開発を行っている。この手法によりNbTi超伝導線材における低中磁界領域(>5T)で、高Jc化が達成されているが高磁界領域においては、Jcが劣化する現象が観測されており、その原因の解明、及びその改善が大きな課題となっている。研究者はその原因の一つとして、近接効果による上部臨界磁界の劣化に着目し、これを抑えるために常伝導コヒーレンス長ξnの異なるCuNi(ξn〜25nm)とCu(ξn〜300nm)を人工ピンニングセンターとして導入し、それらを量子化磁束サイズ、及びその間隔に適合した数十ナノ〜数ナノメートルスケールで導入されたNbTi超伝導極細多芯線材の設計・製作を実施中である。現在、Cuを人工ピンとしたNbTi超伝導線材製作がほぼ完了し、Jcの温度・磁界依存性の測定に着手している。一方、その比較用として人工ピンニングセンターの材質を母材のNb-Tiとは異種の超伝導体であるNb,Nb-Ta,Taとそれぞれのコヒーレンス長、熱力学的臨界磁界、臨界温度などの異なる第2種超伝導体を選択した人工ピン線材のJcの温度・磁界依存性をSQUID磁化測定により詳細に調査した。その結果、Nbピンは低中磁界においては従来の常電導Tiピンより強いピンとして働き、また他の超伝導ピンよりも有効なピンとして作用することが判った。またこの理由はG-L方程式により計算された磁束線の自由エネルギーの変化の増加の割合に対応していることが明らかになり、材料選択の重要な点として、超伝導コヒーレンス長、熱力学的臨界磁界がともに大きい超伝導体が有効なピンニングセンターとして作用することが示された。今後、上部臨界磁界の温度依存性の測定を行い、製作された常伝導ピンとの比較検討を行う。
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