スピン偏極電子線を用いた実験においてはスピン偏極度を測定するスピン検出器が必要不可欠である。最も代表的なスピン検出器はMott検出器であるが、Mott検出器は検出感度が非常に低く、スピン偏極度の測定に長い時間を要するという欠点を持つ。スピン偏極電子線を用いた新しいマイクロアナライザを開発することを目的とする本研究においても、より高感度なスピン検出器を開発することは重要な課題である。そこで本研究では、まず、電子散乱のモンテカルロシミュレーションによりMOtt検出器の感度を上げるための条件の探索を行った。これまでの電子散乱のモンテカルロシミュレーションでは電子のスピンが考慮されていないため、スピンに依存した散乱過程のモデルの構築を行った。すなわち弾性散乱過程にスピンを考慮したMottの断面積を組み込んだ。開発されたシミュレーションは報告されているスピン偏極電子線の散乱実験の結果を忠実に再現することができた。これを用いてMott検出器の高感度化の条件を探索した結果、従来型のMott検出器では、現在よく用いられているものが既に最適条件に近く、これ以上の高感度化をはかることは難しいことが判明した。そこで次に従来型のMott検出器を直列に数個並べた多段型のMott検出器を考案し、これについて検出感度の検討を行った。シミュレーションの結果、段数を増やすにともないスピンの検出感度が大きく向上することがわかった。今回の検討により原理的な高感度化の可能性を示すことができたので、より現実的な条件における検討が今後の課題である。
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