本研究では、テラヘルツ領域で動作する半導体デバイスとして、量子井戸構造中のサブバンド間遷移あるいは超格子構造中のブロッホ振動などに着目し、新しい原理に基づいたテラヘルツ光発光・受光デバイスの研究を進めてきた。特に、量子井戸構造では、10ミクロン帯に感度を持つ単一量子井戸赤外フォトディテクターを作製し、その性能評価を行った。量子井戸フォトディテクターは量子井戸内のサブバンド間光吸収によって光励起電流が生成され、その光励起電流を検出することによってフォトディテクターとして機能する。本研究では、自由電子レーザー照射による時間分解光励起電流測定システムを構築し、量子井戸赤外フォトディテクターの検出感度が、光励起された電子の寿命と、励起された電子が、量子井戸内からバリアをトンネリングして抜け出るまでのトンネリングエスケープ時間との関係によって決定されることを明らかにした。 一方、テラヘルツ光発光デバイスとしては、超格子構造中のブロッホ振動に着目し、超格子テラヘルツ光デバイスの試作と評価を行った。評価システムとして、極短レーザーパルス照射によって試料表面から発生するテラヘルツ光を、マイケルソン干渉計によって分光測定する時間分解テラヘルツ分光測定システムを構築した。該システムでは、テラヘルツ光の検出器として比較的平坦で広帯域な赤外線検出器であるボロメーターを採用し、数10テラヘルツまで感度を有する広帯域な測定システムを実現した。該システムにより、パルスレーザー照射によって生成されたキャリアが超格子構造中のミニバンド内を走行することによって発生するテラヘルツ光をフェムト秒オーダーで時間分解測定することが可能となり、ミニバンド内のキャリアの過渡的な運動を時間領域で解析し、超格子構造中のブロッホ振動と、そのテラヘルツ光デバイスへの応用に向けて新しい知見を得た。
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