素子の微細化に伴い電気伝導に関与する電子数が減少し、平均化されない個々の電子によるさまざまな振る舞い、いわゆる単一電子による現象が電気伝導に捕らえられるようになる。このような平均化されない個々の現象は、微細化することによってより顕著になり信頼性上ますます問題となるが、一方で平均化された量の伝導特性では捕らえられない微視的な情報を得ることができる。さらにこれらの現象を逆手にとった、単一電子現象を制御することによる究極的なデバイスの提案へとつながる。 微細MOSFETにおいては、チャネル近傍のトラップへの単一電子の捕獲放出によるランダムテレグラフシグナル(RTS)と呼ばれるノイズがチャネル電流にとらえられるようになる。この現象は、LSIにとって重大なエラーを引き起こすばかりでなく、一電子に起因した現象であることから、一電子を制御した究極のエレクトロニクスへの手がかりを与えるものとなる。 今年度は、ホットキャリアに関わる一電子現象を取り扱った。高電解下でチャネル電流のランダムテレグラフシグナルを調べると、ホットキャリアに伴って生成される基板電流が、チャネル電流に対して逆相で揺らぐ現象がはじめて見出された。このような増幅現象は、これまでのノイズ評価においては無視されていた効果であるとともに、LSIの信頼性という観点からも、生成された電子のトラップがまたホットキャリアを増幅すると言うことであり大きな問題である。一方、一電子制御のデバイスという観点からは、一電子制御のデバイスは駆動力が小さいと言うのが大きな問題の一つであるが、ここで見出された現象は、一電子がチャネル電流を増幅できると言うことを示している。したがって、今後、一電子制御の回路構築への手がかりを与えるものと期待される。
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