研究概要 |
本研究では,非線形力学系理論に基づく時系列解析を適用する際に必要となる定常性の成立という仮定を検定するための理論を確立することを目的とする.(1)力学系の定常性とは何か,(2)どのように定義すべきか,更には,(3)どのように定量化されるべきかという観点から解析する.最終的には,少なくとも実験的に,汎用性の高い,力学系の定常性基準を提案することが眼目である.そのために,本年度は,以下の項目から検討を行うことで,上記の課題に対するアプローチとした. 1. 力学系の定常性をどのように定量化するか. 非線形力学系理論に基づく時系列解析を用いる際には,得られた観測データがいわゆる「定常」な状態にあることが仮定として用いられる.この仮定に基づいて,非線形モデリングの一手法として,「局所線形近似」手法が,カオスなどを含む非線形性を有するデータのモデリング手法として有効である. 実際に計測される時系列信号には,上述の定常性の仮定が成立していないことがむしろ多いと考えられる.そこで,このような非定常な信号にも対応できる「時空間局所モデリング法」を提案した.次に,このモデリング手法に基づく解析により,対象とするデータの持つ非定常性を定量化することに成功した. 2. 力学系の定常性とはなにか. 次に,決定論的非線形力学系の存在を考慮にいれた定常性を定義するために,(弱)定常性を「平均が一定で,かつ,共分散が時間差のみの関数となる.」とする従来の定義に基づく定常性の検定手法では,非定常と見なされるデータを用いて,上で提案した「時空間非定常モデリング」を適用することで解析した.具体的な対象は,力学系の構造は全く変化しないのに,応答が間欠性カオスとなるために上記の従来基準では非定常とされてしまうデータを使用した.その結果,本研究で提案する定常性解析手法を用いると定常と判されること,従って従来の定常性の定義とは異なり,自然な形で力学系の定常性を議論できる可能性を示唆した. 現在,「力学系の定常性とはなにか」の項で示唆された結果を考慮にいれた力学系の定常性に関する新しい定義(力学的定常性)に関して,より定量的な考察を行っている.
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