研究概要 |
人間の視覚処理系は初期視覚と中間視覚および高次視覚に大別される.本研究では初期視覚とその統合過程である中間視覚との間の関係を考察した.特に「動き(初期視覚)による図地分離(中間視覚)」という知覚現象を例にとって調べた.そこで,ランダムテクスチャの画像を多フレーム集めて動画にしたランダムドットキネマトグラム(以下RDKと略記)に注目し,それを人間が観察したときの知覚形態を調べ,それを反応拡散方程式等の微分方程式系でモデル化した.そして,このモデルに基づいた系を構成してシミュレーションを行い,形成されたパターンが知覚形態と質的に一致するか否かを確認し,それによってモデルの有用性を判断した. 上記に基づいた本研究での成果は以下の二つに要約される. (1) 背景の上を背景と異なる動きを持つ正方形領域が移動するようなRDKを作成して観察すると、その正方形領域が背景から浮かび上がって分離して知覚される(図地分離).ここで再生速度(1秒あたりの動画フレームの数)を変化させると,再生速度が大きい場合は知覚される正方形領域の角の鋭さが保持されるのに対し,再生速度が小さい場合は角の丸められた図形が知覚された.この現象を反応拡散方程式から導出される界面グイナミクスで定式化した.即ち,知覚された輪郭を界面と同一視し,輪郭の丸まりを界面グイナミクスに帰着させた. (2) 上記RDKのような自然な状況とは異なり,領域の境界を固定し,その内部と外部に異なる動きを与えたような不自然なRDKを作成して観察すると図地分離が生じず,動きの境界の輪郭も不明瞭であった.このことから二つのことが言える.まず,動きの境界の「動き」が図地分離に大きく関与していること.次に,図地分離が動き検出に影響を与えることである.本研究では動きの境界の動きを移流方程式で定式化した.
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