研究の最終的な目的は重度の聴覚障害者に音声の情報を呈示するような装置(タクタイルボコーダ)を開発することにある。従来の方式は音声情報を振動パターンに変換して指先の皮膚に呈示し、振動触覚のみを利用していた。しかし、振動パターンだけでは、呈示できる情報量に限界があると考えた。そこで、与えられる情報量を増やすために、音声の質を触覚の質感(触感)に変換し呈示できないかと考え、そのための基礎研究を行った。今年度は、触感の内、「ざらざら感」の定義を試みた。 研究では、「ざらざら感」の知覚に関する刺激閾を求めた。「ざらざら感」の刺激閾値を求める方法として、サンドペーパを用いた。サンドペーパを用いたのは、工業規格で平均粒子径が決められており、「ざらざら感」の刺激閾値を定義するには簡単だと考えたからである。 用いたサンドペーパの粗さは#120から#2000のもの10種類で、大きさは1.5×4.0cm。指を動かす速度や圧力を決めずに被験者に自由に指を動かしてもらった。なお、サンドペーパの表面の色も判断に影響を及ぼす可能性があったので被験者は自分の指先を見ることができないよう衝立を立てた。その結果、被験者が「ざらざら」と感じるその閾値はサンドペーパの平均粒子径が30μmの時であることがわかった。サンドペーパには様々な粒子径のものが不規則に配置されているので「ざらざらである」ように感じるのであろう。 次年度は、サンドペーパの粗さのパラメータをさらに限定し、これらのパラメータと「ざらざら感」との関係を調べ、微小粒子等を使って「ざらざらしている」ような表面を人工的に作りたいと考えている。タクタイルボコーダの音声情報呈示部としてサンドペーパを用いることは実際には不可能であるので、将来はこの不規則な凹凸パターンを自動発生できる装置を作りたいと考えている。
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