研究概要 |
人がコップなどの対象物を把持する運動において,対象物を把持するための手の形状が掴む前に事前に生成されている(プリシェーピングと呼ぶ)ことが実験的に確認されている.このプリシェーピングは,対象物に関する視覚情報から把持するための手の形状や手の方向が計画されていることを示唆している.そこで,本研究において, 「この計画は繰り返し対象物を把持することにより獲得した対象物の内部モデルを用いて計画されている」という仮説をたて,この仮説に基づいて,対象物操作における認知・運動統合機構の解明を目指す.一方,脳内の視覚情報処理には2つの処理系が存在することが知られており,Mishkinらによって形態視・空間視仮説が提案され,現在でも正しいとされている.しかし,最近Goodaleらは頭頂葉または下側頭葉に傷害のある症例および錯視図形(サイズに関する錯視)を用いた計測実験から,認知・運動仮説を主張している.この仮説が正しければ,認知課題では錯視の影響を受けるが,運動課題では錯視の影響を受けないことになる.以上のような観点から,本研究では,Goodaleらの計測手法の問題点を解決し,さらにサイズ知覚だけでなく方向知覚に関する錯視図形を用いることにより検証を行った.計測実験は,力覚提示装置(PHANToMを2台)を用いて反力を指先にフィードバックすることにより仮想的に対象物を実現し,対象物の視覚情報はモニタ上に表示した.モニタ上には錯視図形(サイズに関する錯視または方向に関する錯視)を表示して,表示された対象物を手で把持する運動(親指と指示指の指先位置)を計測し,指先の開き幅と方向について評価を行った.この結果,認知課題も運動課題も錯視の影響を受けており,Goodaleの仮説を指示しない結果となった.また,本研究で得られた結果は,Mishkinの仮説により説明することができる.
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