初年度は、まず、ハイブリッド・ブレインシステムの主要な部分である、脳スライス標本内ニューロン活動のリアルタイム計測・制御プログラム(=人工モジュール)の開発を行った。人工モジュールモデルはニューロン活動(=入力系列)を計測し、これをリアルタイム処理して刺激電流パルスの強度とタイミングを決定し、出力する。入出力チャネルは、現在のところ、それぞれ1チャネルであるが、容易に増設可能である。人工モジュールの入出力特性は実験中に変更可能である。 次に、実験システムの性能評価のために、出力チャネルを入力チャネルに接続して、動作テストを行った。人工モジュールの入出力特性はロジスティックマップとした。実験の結果、サンプリング周波数を200Hz程度としてもリアルタイム処理が可能であることが示された。これにより本実験システムが、脳モジュール間の相互作用によって生じると考えられる、数Hz程度の脳内リズム活動のメカニズムを研究するのに必要な性能を有していることがわかった。 最後に、予備実験として、人工モジュールに海馬スライス標本(=脳モジュール)を単方向的に接続(人工モジュール→脳モジュール)して作られた、ハイブリッド・ブレインシステムの動特性を調べた。人工モジュールにはリミットサイクルやロジスティックマップなどをプログラムした。また、脳標本に高カリウム人工脳脊髄液を負荷することにより、ニューロン全体を脱分極させ、ニューロン活動が同期しやすい状態にした。実際、この灌流液中では、海馬スライス標本はてんかん様の自発的スパイク活動を呈するようになった。接続実験の結果、脳モジュール活動の、人工モジュールの活動への「引き込み現象」が観察された。
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