研究概要 |
本研究は,時変システムや非線形システムに対する制御系設計として有効な,LPV(Linear Parameter Varying)システムに対する補償器設計理論において未解決となっている,入出力データに基づくLPVシステムによる実システムのモデリング・同定の過程を扱い,「LPVシステムに対する同定から制御までの統一的な制御方策を確立すること」を目指している.その具体的な課題は,1:「LPVシステムにおける同定結果の解析」,2:「同定結果と制御系設計手法との融合,アルゴリズムの確立」,3:「実システムへの適用と結果の考察」,4:「提案手法を実現するソフトウエアの公開と配布」であり,平成10年度は課題1,2の理論的結果を導出することを計画した. 課題1:時変システムに対する同定誤差の評価を行った.時不変システムにおいてはデータ数増加に対する,ノイズ誤差の0への収束が補償されるが,時変システムにおいては同定精度の限界があることが示された.つまりこの場合,同定誤差は確率的ノイズ誤差とシステムの時間変動に起因する誤差の和に分解でき,後者はデータ数に対して増大する傾向にある.よって本同定誤差にはデータ数に対してトレードオフが存在し,誤差を最小とする最適なデータ数が存在すること,またその最小誤差が同定精度の限界であることが示された.本結果により,同定によってLPVモデルを導く際のデータ数,補償器設計において考慮すべきロバスト性の設定指針が与えられる. 課題2:課題1を踏まえ,入出力データに基づく時変ノミナルモデルの設定,時刻ごとの同定誤差に起因するシステムの不確かさの設定および補償器設計の,同時設計問題を提案した.本統一的設計問題での指針は閉ループシステムの制御性能であり,結果として同定誤差を最小とする時変ノミナルモデルが最適ではないことがあり得ることを示した.
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