本研究では昨年度までの成果で、腐食PC鋼材の残存性能と表面凹凸形状の間に密接な関係が存在することが明らかになった。しかしながら、これまでに用いた試験片は無応力状態で腐食させていたため、実際に供用されている鋼材においては腐食の発生状況が異なることや環境促進試験開始後早期に遅れ破壊が発生することが懸念された。そこで、本年度は、昨年度の実験よりも実橋内の鋼棒の環境を正確に再現させるために、PC鋼棒に一定の応力を与えた状態で環境促進試験を行い、腐食損傷を生じさせることにした。今回の実験に際して、一定の応力を与えつづけるために、鋼管を利用した応力導入治具を作成し、その治具を装着した状態で環境促進試験を実施し、実際に橋梁内に配置されている鋼材の腐食状況を再現することを試みた。この環境試験によって腐食損傷を受けたPC鋼材に対して腐食状況調査や引張試験を実施し、腐食時に作用している応力がどのような影響を与えるのかを確認した。 今回実施した実験ではPC鋼材に対して最大0.8σyの応力を与えるような導入張力の設定を行って環境促進試験を実施したが、促進試験早期での遅れ破壊は確認されず、全供試体において所定の環境促進を実施することができた。現時点までに確認できたデータをもとに比較を行うと、腐食損傷の状況と導入応力の間には明確な関係が認められなかった。また、各種性能と導入応力の関係を調査したものの、明確な関係を見出すにはいたらなかった。このことから、今回行った実験環境においては、腐食損傷を受けたPC鋼材の残存性能と腐食損傷発生時の応力との間には相関があまりないとの結論に至った。
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