本年度の研究では、昨年度に引き続き官能評価および成分分析の観点から、海辺における「におい」の発生特性および環境要因との関係について検討した。年間データを通して得られた知見は以下の通りである。 まず、官能評価の観点から現地調査(砂浜、磯、港)および培養実験を行い、海辺のにおいの特徴および環境要因との関係について検討した結果、磯の臭気強度および快・不快度は潮位、照度、湿度などの環境要因によって変化することが明らかになった。特に、日中(湿度が低く照度が高い)の干潮前後に快適性が上昇する傾向が認められた。 次に、成分分析の観点から磯のにおいの主要な発生源と考えられる海藻類に注目し、その特徴的揮発成分および環境要因との関係について検討した結果、海藻の種類によって検出される物質は異なっていたが、照度によって大気構成物質に違いが見られるという点では共通していた。このような結果は、照度の違いによってにおいの質が異なるという現地調査での傾向を説明するものであり、特に明培養の条件下ではピヒリバとアナアオサから人の気持ちを落ち着かせる効果のあるテルペン類が検出された。 以上のことから、海辺のにおいの快適性には多様な海藻群落が形成される磯のにおいが大きく関与していることが明らかになった。従来の沿岸環境整備においても人工的な砂浜や磯場の形成が推進されてきたが、現地の気象条件や環境条件を十分把握したうえで生物生息空間を醸成することが人間にとって快適な海岸環境の整備に不可欠であるといえる。
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