兵庫県南部地震の教訓や、国際社会への対応の必要性から、我が国では現在、より明快に目標性能を規定する設計体系を検討する方向にある。建築構造物の構造性能の評価のためには、2段階のアプローチが必要となる。すなわち、部材レベルの性能評価、および、それを構造物レベルにどう反映させるかである。本研究では、特に、前者を明らかにすることに的を絞る。すなわち、部材レベルの構造性能とそれを評価するための工学量との関係を明らかにすることを目的とする。そこで、既往の鉄筋コンクリート造部材の実験データについて再整理し、各性能評価項目と部材応力、あるいは各性能評価項目と部材の変形量との関係を明快にすることを第1の目標とする。 まず、はり部材に着目し、過去数十年に渡って蓄積されてきた実験データを収集した。はり部材の実験パラメータとして考えられる断面形状、せん断スパン比、鉄筋量、材料強度あるいは加力方法などについて、できるだけ多種多様な組み合わせの実験データを収集した。収集した部材実験データは、部材ごとに、各性能評価項目について整理し、テンプレート化した“実験データシート"にまとめた。整理した性能評価項目として、(1)ひび割れ発生以前、曲げひび割れ、せん断ひび割れ、鉄筋の局部降伏、かぶりコンクリートの剥落、コンクリートの圧壊、鉄筋の座屈、せん断終局および付着破壊など、(2)部材の状態を総合的に表したもの、以上の2種類である。(1)に挙げた性能評価項目ついては、既往の評価方法を洗い出し、それらの方法による算定値と実験値を比較・検討することが主眼である。各性能評価項目について、既往の算定方法による算定値と実験値の比の平均値および標準偏差などを求め、その精度・誤差を検討し、適用範囲を明確にした。
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