都市機能が複雑化している現在社会では地震後の都市機能の復旧の把握が非常に重要になってきている。特に地球規模でのエネルギー問題、資源の問題が呼ばれていることを考えると、大地震後も建物の継続使用を考えたい。一方、技術的な向上によりさまざまな特性をもつ高性能な建築構造物用鋼材を安定な供給することができるようになって来ており、鋼材の有効利用の研究も必要である。このような背景の中で構造物を主体構造とエネルギー吸収装置に分けて考え、主体構造に高い降伏点と大きな弾性ひずみを持つ高張力鋼を使用することで常に弾性的挙動に留める「被害レベル制御設計法」が提案させている。この設計法の考えに、エネルギー吸収を期待しない程度の限定されたひずみ振幅範囲で主体構造の梁端部に塑性化を認めることができるならば、さらに利用範囲は広がるものと考える。しかしながら、1994年米国のノースリッジ地震と1995年我が国の兵庫県南部地震において鋼構造の溶接部の脆性破断が数多く報告されたように、柱梁接合部における梁端フランジ溶接部は大地震時に塑性ひずみが集中する個所であり、懸念される低温脆性の問題も含めて、繰り返し塑性ひずみを受けた場合の力学的特性を検証する必要がある。本研究では、普通鋼(SN400A、SN490B)、高張力鋼(HT590)、高性能高張力鋼(SA440B)の4種類の鋼材をそれぞれ用いたH型鋼柱貫通型の梁端フランジ溶接部をモデル化し、載荷方法(静的、動的)、環境温度(室温、0℃、-20℃)を変えながら実験を行った。エネルギー吸収装置を設けることにより主体構造を弾性的挙動に留める設計法において、許容できる梁端部最大塑性ひずみ振幅は、普通鋼で鋼材の降伏ひずみの3倍〜5倍、高張力鋼と高性能高張力鋼で1.5倍であることを実験結果から明らかにした。本実験の温度条件では、明らかな脆性破壊は起きなかったが、一部の高張力鋼と高性能高張力鋼の破断面に脆性破面が見られた。
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