衣服を身につけた人体の熱環境に対する温熱反応の時間変化を、発汗がある場合にも十分に予測できるモデルを作成することを目的として、以下の検討を行った。 1. 被験者実験を行った。汗をかくような高温高湿度環境に一定時間被験者を滞在させ、その後、汗が着衣および皮膚面に蓄積した状態で、冷房を想定した低温低湿度環境へと移動させ、その過程での皮膚温、深部温、体重の時間的変動を計測した。 2. 着衣における熱・水分移動に関する物理モデルと、人体の温熱反応に関する生理モデルであるTwo-nodemodelを組み合わせて、「非定常着衣-人体熱水分収支モデル」を構成した。 3. 提案したモデルによる数値計算結果と実験結果を比較することにより、モデルの妥当性を検討した。 上記の検討により、以下の結果が得られた。 1. 高温高湿度環境において、周辺空気および皮膚表面からの水分吸着により、着衣は急激な温度上昇を示す。また、実験で得られた値を、解析で大略再現することができた。 2. 高温高湿度環境における着衣温の上昇が下降に転ずるのは、皮膚の相対湿度が100%に達した時点である。 3. 発汗の後、低温低湿度環境に移動すると、着衣温、皮膚温ともに急激な温度変化を示す。これを解析モデルで表現するには、皮膚と着衣の間の熱・湿気伝達率を変化させるだけでは不十分であり、着衣における水分移動、蓄積についてさらに詳細な検討を行う必要がある。 4.Two-node modelでの皮膚温の計算値は、蓄積された汗が蒸発する過程で、いったん下降した後、再び上昇し、さらにその後下降に転ずるという傾向を生じさせる場合がある。これは、血流調節のモデルと関係していると考えられる。 5. 皮膚温、着衣温の予測には、発汗量の正確な予測が不可欠である。Two-node modelにおいては、発汗量が皮膚温および深部温の関数で表現されているため、とりわけ深部温が適切に計算されることが重要である。本年度の実験で得られた鼓膜温および腋下温は、深部温の計算値と必ずしもよく一致していないことから、モデルの検討に加え、深部温の計測についてもさらに検討が必要である。
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