本研究では、病院・高齢者施設について、おもに入院患者・入所高齢者の生活場面と建築空間の関係を考察した。また、これにあわせて、臥位での室空間における知覚心理実験を行い、臥位での領域構造知覚について検証した。 平成10年度は、病院・高齢者施設の空間構成と入院患者・入所高齢者の身の置き処の関係に着目し、秋田県立リハビリテーション病院、大阪堺市の老人保健施設みあかーさ、茨城県竜ヶ崎市の老人保健施設涼風苑にて、行動観察調査および入院患者・入所高齢者・看護婦・介護スタッフを対象としたインタビュー調査を行った。その結果、症状、痴呆度、自立度により身の置き処とする空間に特徴的なヒエラルキーがあることがわかった。 平成11年度は、前年の研究の継続として、外部空間の設け方に特徴がある東京都葛飾区の特腹養護老人ホーム清遊の家について、行動観察調査および入所高齢者・介護スタッフを対象としたインタビュー調査を行った。分析では、入居者を匿名的に一括して取り扱うのではなく、個々人の諸処の特性を踏まえ、生活を送るという文脈と建築空間の関係を取り扱った。その結果、痴呆度、自立度によって入所高齢者の生活領域や内部空間と外部空間のとらえ方に違いが生じることがわかった。また、臥位の知覚心理実験では、室空間に対するベッドの置き方や頭の向き、窓の有無によって、領域構造にいくつかの特徴がみられた。壁に対向して寝た場合は天井・壁面に囲まれた感覚から領域が広く感じられ、一方窓に対向した場合は狭く感じられることなどがわかった。
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