本年度は二つのテーマで研究を行った。ひとつはラスキンの建築論を経て、19世紀後半のイギリスのインテリア・デザインにいかに時代性が表れたかということである。19世紀の美術批評家ジョン・ラスキンの建築外部装飾論は「解釈される建築装飾」を説いていたが、その精神はやがて内部装飾にも敷術されていった。特に2次元装飾に関しては、ふたつの異なった装飾が生み出されることになる。ひとつは、オーウェン・ジョーンズやクリストファ一・ドレッサーを中心とするデザイナーたちで、第1回万国博覧会の美術デザイン部門にもかかわっグループによるものである。ドレッサーの言葉をかりれば、19世紀のデザインは急成長を遂げる時代を象徴する「美と力」こそがそのキーワードであった。よってドレッサーの植物模様は、中心となる一点から、放射状に直線的にのびていく植物の「力」を表現した「直線を中心とした対称的な装飾」であった。その一方で、機械化の波が、手工芸の分野に侵入することをよしとしなかったモリスにとってクラフツマンシップとは、過去から連綿と受け継がれ、あらたな成長をつけ加えていくべきものだったのである。その結果、モリスの植物デザインは永遠の成長をモチーフとした「曲線を中心とした非対称的な装飾」となった。この双方はそれぞれ当時の時代をデザイナーがどう解釈するかということの現れであったといえる。この研究に関しては、1998年10月にロチェスター(アメリカ)で行われた「第13回中世主義国際学会」で発表した。いまひとつの研究テーマは、1920年代の日本の経済学および社会学にジョン・ラスキンの美術建築論がどのような影響を与えたのかについてである。これは、学問としての日本の経済学・社会学の黎明期に、ジョン・ラスキンの経済論のみならず、美術建築思想が与えた影響について、都市学者の奥井復太郎のラスキン研究を中心におこなったものである。
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