本研究ではスパッタ装置制御系の改良、MBE装置とスパッタ装置を用いた試料の作製、構造・物性の評価を行った。 まず岩手大学工学部に設置されているスパッタ装置の改良を行い、次いでそのスパッタ装置およびMBE装置を用いて酸素濃度変調膜試料の作製を行った。これまでに作製したFe系変調膜やCo系変調膜は、カソードが一基しかないスパッタ装置で単体金属ターゲットを用いて酸素ガスの断続を行いながら作製したものであったが、最近カソードを二基に増設したため、それぞれ別のターゲットを用いて作製することも可能になった。そこでFe系変調膜を作製する場合も、より組成の制御を精密に行うことを目指し、鉄ターゲットと酸化鉄ターゲットを用いて膜を作製することも試みた。 スパッタ装置での試料の作製は、諸物性の測定が容易な全膜厚が比較的厚い試料を多数作製することを主な目的とした。一方、MBEで成膜する際には、同装置に装着されているRHEED、UHV-STM/AFMなどで成長のその場観察を行いながら成膜を行った。 作製した膜については、X線回折によって結晶構造、長周期構造の評価、透過型電子顕微鏡を用いて微細組織観察および結晶構造の確認、XPSによって結合状態と組成、およびそれらの深さ方向プロファイルの測定を行った。 ついで膜の諸物性の評価を行った。磁性、電気的性質およびこれらの低温における温度依存性を測定した。これらによりFe系変調膜は比較的磁化率の大きな常磁性的成分と強磁性的成分が含まれていること、5Tの磁場中で2Kまで冷却した場合、非常に大きな一方向磁気異方性が現れること、にもかかわらず、ネール点ははっきりせず、反強磁性成分はあるとしても非常に微量であると考えられること、積層周期によって電気伝導が金属的になったり半導体的になったりすることなどがわかった。
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