本研究は、ナノオーダーの周期で一方向に山と谷が交互に現れるファセット基板上での薄膜の成長様式を明らかにし、金属面内超格子の作製に応用することを目的としている。本年度の研究計画としては、1.コンピュータシュミレーションによるファセット基板上の薄膜成長様式の予測、2.ファセット表面を有するTiN薄膜の作製の二点を掲げていた。以下にこれらについての成果を報告する。 1.基板温度、薄膜-基板間の格子ミスマッチ、薄膜-薄膜間、薄膜-基板間の原子間相互作用の大きさなどを変化させてナノファセット基板上の薄膜成長シュミレーションを行った。分子動力学(MD)法では拡散現象を扱うのは難しく、単純なモンテカルロ(MC)法では乱れた構造は扱えない。本研究では、成長クラスターの非平衡な構造緩和をMD法で行い、熱活性過程である表面拡散をMC法で扱うMD Aided Stochastic MC法を新たに開発した。薄膜と基板の最近接原子間距離が同じ場合において、薄膜-薄膜間より薄膜-基板間の原子相互作用が強い場合では、基板の谷の部分より山付近での成長が促進される。反対に、薄膜-薄膜間の方が薄膜-基板間より原子間相互作用が強い場合では、薄膜原子は基板の谷の部分に集まり、谷から山へ成長が進むという成長様式となる。 2.TiNはNaCl構造を有することから、その(110)表面はより低エネルギー面である{100}面からなるファセット構造をとる可能性がい。反応性rfマクネトロンスパッタ法を用いてMgO(110)単結晶基板上にTiNエピタキシャル薄膜を作製した。(110)表面の傾き0.1°程度、RMSラフネス2-3nm、基板との面内方位が一致した良好なTiN膜が得られた。基板温度600℃および700℃で成長された膜では異方的な表面形態が認められたが目的とするファセット構造はまだ得られていない。
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