最初に様々なチタンキレート錯体を合成しその空気中および強塩基下での安定性を検討した結果、ニトリロ三酢酸(NTA)と過酸化水素(H_2O_2)の両者をTiイオンに配位、キレート化させた錯体が最も安定であり、100℃以上でも沈殿せず安定に存在できることを見いだした。そこで、このチタン源を用いてチタン酸塩の中でも代表的な強誘電体であるチタン酸バリウム(BaTiO_3)の水熱合成を試みた。しかしながら、強塩基性でも安定であったNTA-H_2O_2チタンキレート錯体はBaイオン共存下では不安定となりゲル状の沈殿を生じた。沈殿物は非晶質であったが、これを熱処理するとBaTiO_3が生成することから、沈殿物はBaとTiを含むことがわかった。この沈殿物を水熱処理した結果、BaTiO_3単結晶粒子を得ることができたものの、ゲル状の沈殿物を出発原料としているため、その粒径は最小でも20nm前後に留まった。このため本研究の目的であるnmサイズのBaTiO_3単結晶粒子を得るには従来の水熱法では困難であることがわかり、新たな合成法を開発した。この方法はTiイオンとBaイオンをイオンのままで反応させ、直接BaTiO_3を合成させる方法で、研究代表者は本方法を低温著直接合成(LTDS)法と命名した。この方法は予め強塩基性にしたBa溶液中に、強酸性であるTi溶液を滴下させ、そのときに発生する中和熱を反応の駆動力として用いることで、直接TiとBaイオンからBaTiO_3を合成する。実際、この方法を用いることで10nm以下のBaTiO_3単結晶粒子の合成に初めて成功した。この成果については平成11年1月に行われたセラミックス協会基礎討論会で公表され、現在これに関する複数の論文が審査中の段階にある。更に得られたBaTiO_3単結晶粒子について種々の分析を行ったところ、この単結晶中に含まれるBa/Ti原子比が1よりも小さく、800℃以上での熱処理によりBaTi_2O_5というTi-rich相が一部生成した。そこで現在、これらの粒子中におけるBa/Ti原子比を1.00に近づけるための検討を行っている最中である。サイズ効果の研究に使えるBaTiO_3単結晶粒子の完成が間近であると考えている。
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