研究概要 |
今年度は擬似生体環境下における水酸アパタイト(HAp)表面への骨類似アパタイト層の形成過程を水晶振動子マイクロバランス(QCM)法によるその場質量変化分析法を用いて検討することを最大の目的とした。研究課題との関連は、人工材料の高生体活性を評価するための一手法として、人の体液の無機イオン濃度に等しく調整された擬似体液下での材料表面への骨類似アパタイト層の形成に伴う重量変化をQCM法により追跡することにある。なお、ここでの高生体活性とは材料表面に早期に骨類似アパタイト層を形成することを意味する。QCM法とは圧電性を有する水晶の共振周波数変化を利用した微小重量測定法である。本研究では共振周波数6MHz、ATカットの水晶振動子を用いたため、1Hzの周波数の減少は12.3ngの堆積重量の増加に相当する。 HAp薄膜試料は水晶振動子上に高周波マグネトロンスパッタ法と新規な低温アニール法を併用することで作製した。得られた試料は擬似体液(36℃,pH7.4)を含むQCMセルに配置し、その共振周波数の経時変化を周波数カウンターにて追跡した。HApがコートされていない水晶振動子単独では共振周波数の経時変化が観測されないのに対し、HApを被覆した試料においては浸漬時間の経過と共に周波数が顕著に減少していることが確認された。この周波数の減少は、HAp試料表面上への堆積物の重量増加を反映したものであると考えられる。その堆積物はX線回折パターンと赤外吸収スペクトルの結果から骨類似アパタイトであることを確認している。 QCM法を用いることにより擬似体液浸漬におけるアパタイト結晶成長に対し、その重量変化をin situにてモニタリング可能であることを確認した。QCM法は連続的なin situ重量変化が測定可能であることから、初期段階におけるアパタイト結晶成長機構の解明に応用できるものと考えられる。
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