研究概要 |
21世紀に向けて、メンテナンスを極小に抑えることができる社会資本を構築するため、新しい耐食機能を有する鉄鋼材料の開発が強く望まれている。本研究課題は、イオンビーム技術を用いた表面改質を行うことにより、鉄鋼表面の化学組成と物理的構造を制御し、腐食により生成するさび層の制御に繋げるとの新規性の高い発想による基礎研究である。今年度は、その第一ステップとして、種々のイオンを含有する水溶液薄膜下で低合金鋼表面に形成されたさび層の防食性を,走査振動電極を用いて塩化ナトリウム水溶液中における腐食電流分布の観点から評価した。その結果、水溶液中のイオン種により、形成するさび層の防食性は大きな影響を受けることが明らかとなった。特に、さび層中のゲーサイトの割合とさび層の防食性に強い相関があること、硫酸クロム水溶液にゲーサイト生成促進効果があり腐食性の強い塩化物イオン共存下でもその防食性が維持されることが解明され、注目すべき成果が得られた。また、ニッケルイオンが水溶液中に存在すると、本質的に塩素イオンを含有する単斜晶のアカガナイトが形成され、塩素イオンが結晶中に取り込まれ不活性になることにより、塩素イオンがその後の腐食に関与しないことが明らかとなった。さらに、上記のような防食効果が得られない場合には、さび層の酸化還元反応を伴いながら、腐食が著しく加速されることも分かった。現在これらの新知見を生かして、イオンビームによる積極的な鋼材の表面改質と、その腐食機構のナノスコピック解析に着手している。
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