従来より、ステンレス鋼に対するレーザ表面改質は、主として粒界に析出したCr炭化物の溶体化や表面を溶融・急冷凝固させることによる準安定相の生成あるいは合金化を目的として行われてきた。本研究は、レーザ表面開改質の中でもとくにレーザ表面溶融処理に着目し、同処理部の凝固組織をシールドガスを用いて積極的に変化させることによって、より耐食性に優れた表面改質部を実現することを目的としている。これまでに得られた主な知見を要約すると以下のとおりである。昨年度の研究により、シールドガスとしてアルゴンを使用した場合、レーザ表面溶融処理部の組織はバミキュラー状のδフェライト(以下δと略す)がセル中央部に存在するδ初晶+δ-γオステナイト(以下γと略す)2相凝固組織(FAモード)となるのに対して、同一レーザ照射条件であっても窒素をシールドガスとして用いた場合、レーザ表面溶融処理部の組織はγ初晶+γ-δ2相凝固組織(AFモード)あるいはγ単相のセル状組織(Aモード)となる。この凝固組織の差異がその後の熱処理過程における鋭敏化と呼ばれる耐食性劣化現象の抑制効果に対して大きく影響を及ぼすことが明らかとなり、δが存在する方が耐食性の劣化が顕著であることが判明した。この現象について理論的考察を加えるべく、粒界腐食の評価パラメータを提案し、これを用いて鋭敏化挙動をシミュレーションした結果、δ-γ二相組織の方がγ単相組織に比べて大幅に短時間で鋭敏化が開始することがわかり、上記の実験事実が理論的にも証明された。
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