研究概要 |
本研究の目的は,次世代の高耐食性ステンレス鋼である,高クロム含有量のFe-30Cr合金における再結晶組織形成の機構を解明することにある。試験片としては単結晶を用いて,変形時に活動するすべり系と,焼鈍後に形成される再結晶粒方位の関係を検討することにより,変形によって導入される転位組織と,その熱的緩和による再結晶粒核形成への関与を明らかにする。 Fe-30Cr合金単結晶を<111>方向に圧縮変形した。焼鈍後に,変形帯において形成された再結晶粒の方位を調査し,変形組織の方位と比較した。同様の調査を,同一試験片のおもて面,裏面で行った後に,試験片を切断して内部に形成された再結晶粒についても行った。 表裏両面の再結晶粒の大部分(6-7割)は,変形組織の方位を<110>軸回りに回転させた方位になっていた。非常に興味深いことに,回転方向はおもて面,裏面でそれぞれ一定である。すなわち,おもて面側の再結晶粒は,変形組織を<110>軸回りに反時計方向に回転させた方位になっているのに対して,裏面の再結晶粒の回転方向は時計方向であった。また,回転軸の<110>軸は,6種類のうちの2種類が特に強い選択性をもって出現する。この優先的な回転軸の出現は,変形時に活発に活動したすべり系から導入される転位が,焼鈍時に{110}面上でネットワークを組んで再結晶粒が形成されるとするモデルを立てることにより,説明することが可能である。また,回転方向の一意性も,この転位モデルによって説明可能である。 試験片の内部の再結晶粒については,<110>軸回転の割合がやや低くなる他は,表面と同様の傾向が見られ,再結晶核の転位ネットワークモデルの有効性が確認された。 なお,上記研究はMaterials Transactions,JIMに,"<110>-Rotation Recrystallization Mechanism in Fe-30Cr Alloy Single Crystal"として投稿中である。
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