研究概要 |
タンパク質水溶液に糖を添加し凍結乾燥すると,タンパク質は糖によって形成されたアモルファス構造に包埋され,その結果,タンパク質の安定性が顕著に向上する.この糖によるタンパク質安定化機構についてはこれまで多くの研究がなされているが,依然未解明な点が多く,実際の安定化操作の改善に繋がる知見は乏しい.そこで本研究では糖としてスクロース,マルトース,トレハロース,マルトトリオース,および平均分子量1500,6000のデキストラン,タンパク質として牛血清アルブミン(BSA)を様々な割合で含有する糖-タンパク質凍結乾燥資料を作成し,試料中におけるタンパク質の構造保持の度合いを比較した.タンパク質の構造保持度はフーリエ変換赤外分光分析計(FT-IR)を用いて二次構造を解析することにより評価し,各種糖アモルファスの物理的特性は示差走査熱量計(DSC)を用いて分析した.また,タンパク質安定化作用との密接な関係が注目されている糖-タンパク質間水素結合を水分収着特性から定量し,タンパク質の構造保持度との関係について検討を加えた.その結果,タンパク質の構造保持度をαへリックスの含有率を指標として評価した場合,構造保持の度合いはスクロース>マルトース>トレハロース>マルトトリオース>デキストラン1500>デキストラン6000の順となり,スクロースを用いた場合,糖添加量が1g/g-BSAのとき水溶液中の値とほぼ一致した.各種糖アモルファスのガラス転移温度(Tg)を測定した結果,Tgが低い糖ほどタンパク質の構造保持度が高いことが分かった.これはTgが低い糖アモルファスほど糖分子の構造柔軟性が高く,タンパク質との相互作用が形成され易いためと考えられる.また,糖-タンパク質間水素結合の形成度を評価した結果,糖-タンパク質間水素結合の形成度は構造保持の度合いと大略傾向は一致することが明らかになった.
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