本研究では、アルカリ土類金属イオン濃度を簡便・迅速に決定することができる新規なOn-Off信号を示すアントラセン部位を有する非環状クラウンエーテル蛍光試薬の開発を目的とした。 平成九年度では、検出部位であるアントラセン芳香族アミドの光化学的挙動を明らかにするため、電子的および立体化学的観点から数種類の化合物を合成し、検討を行った。その結果、アントラセン芳香族アミドは、アミド結合を経由する“ねじれ型分子内電子移動(TICT)"により、消光することを明らかとした。 この結果を基に、平成十年度では、アントラセン芳香族アミドのアミド基のオルト位からエチレンオキシド鎖にて連結した非環状クラウンエーテルを合成した。ここでは、エチレンオキシド鎖単位を3、4、5と3種類の異なる鎖長の化合物を合成し、アルカリ土類金属イオンとの錯形成および光化学的挙動を詳細に検討した。その結果、金属イオン不在下ではTICT挙動により蛍光がほとんど消光されるが(Off状態)、アルカリ土類金属イオンと錯形成すると両末端のアントラセン芳香族アミドが重なり合うことにより、TICT挙動が抑制されるため、アントラセンの蛍光強度が増加することがわかった(On状態)。また鎖長効果について検討したところ、エチレンオキシド鎖単位が5のときに錯形成定数および蛍光量子収率について最大の効果を示すことを明らかにした。これは、エチレンオキシド鎖単位が5のときに両末端のアントラセン芳香族アミドの重なり合いが最大になるためと考えられる。カルシウム錯体の蛍光量子収率は、金属イオン不在下と比較して42倍もの増加を示すことを明らかにした。 以上のように本研究では、アントラセン芳香族アミドのTICT挙動を制御することにより、アルカリ土類金属イオンに対する新規なOn-Off信号を示す非環状クラウンエーテル蛍光試薬の開発に成功した。
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