平成11年度は、アントラセン芳香族アミド体の光励起状態からの緩和課程について考察するため溶媒依存性について検討した。その結果、3種の化学種すなわちアントラセンとアニリド部位が直交した構造(以下、直交構造)、分子全体が平面になった構造(以下、平面構造)、そしてアミド結合が折れ曲がったTwisted Intramolecular Charge Transfer(TICT)状態を順次経由して消光することが示唆された。今回、我々が開発したアントラセン芳香族アミド体を末端に有する非環状クラウンエーテル試薬は、アルカリ土類金属イオンと錯形成することにより、TICT状態への緩和経路を抑制し、直交および平面構造から、蛍光発光することが明らかになった。錯体構造についてH^1-NMR分光法用いて詳細に検討したところ、エーテル酸素とカルボニル酸素が協調的にアルカリ土類金属イオンに配位することにより、エチレンオキシ単位が3および4では、平面構造を、エチレンオキシ単位が5の場合では、直交構造をとっていることが明らかになった。アルカリ土類金属イオンと錯形成を介して、これらの構造が光励起状態においても固定されるので、蛍光発光を示すと考えられる。さらに、錯形成の効果を定量的に検討するため、蛍光量子収率を決定した。本試薬の金属イオン不在下における蛍光量子収率は、0.0003程度とほぼ消光した。エチレンオキシ単位が5のCa^<2+>錯態の場合では、蛍光量子収率は、0.014と決定され、これは42倍の増加である。他の試薬でもほぼ同様の効果が観察された。金属イオン不在下と存在下における蛍光量子収率の比較から、本試薬は明瞭なOn-Off信号を示すということがわかった。 以上の結果から、我々はOn-Off信号を示すアントラセン部位を有する非環状クラウンエーテル試薬の開発に成功した。
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