蛍光色素であるフルオレセインナトリウムを試料として用い、開発したアダマール変換キヤピラリー電気泳動法の定量性や検出限界について検討した。定量分析における操作を簡単化するため、従来の装置を改良し、より短い全長14cm(有効長4.5cm)のキヤピラリーを用いて測定を行なった。泳動溶液には、30mM炭酸緩衝溶液(pH9.3)を用い、試料である蛍光色素のフルオレセインナトリウムを、アダマール変換コードに従って、光ゲート法により導入した。試料導入用光ゲート及び蛍光検出には、波長488nmのアルゴンイオンレーザーを用いた。キャピラリーを短くすることにより、分析時間は以前の実験装置を用いたときの約半分に短縮された。この装置を用いてアダマール変換の定量性を調べるために、検量線を作成した。この結果、2.0×10^<-12>〜1.5×10^<-7>Mの領域において良好な直線性(R=0.997)が得られ、アダマール変換法において優れた定量性が得られることが確認できた。さらに高感度化を目指してレーザー出力を250mWに上げて測定を行なったところ、5×10^<-13>Mの濃度においても明瞭に試料ピークが認められた。単一注入での検出限界は3.0×10^<-11>Mであった。したがって、アダマール変換を利用することにより60倍の感度向上が達成できた。1セグメント当たりの注入時間(0.5s)で、キヤピラリー内に導入される試料体積は0.55nlである。この中には166個の試料分子が存在する。これは従来の単一注入方式のレーザー励起蛍光検出法を用いたキヤピラリー電気泳動法と比較して、極めて高感度であることを示す値である。今後、より高感度な蛍光検出素子、高出力レーザーの使用等により、従来の方法では不可能である数桁以下の濃度で分析が可能であると期待される。
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