現在市販されている小型のリチウム二次電池の正極には含リチウム遷移金属酸化物のLiCoO_2が用いられている。コバルトは資源的に貴重で高価な元素であるため、より安価なスピネルLiMn_2O_4が次世代のリチウム二次電池の正極材料と注目されている。ところがLiMn_2O_4には初期特性は良好なものの充放電サイクルを繰り返すと次第に容量が低下するという問題点がある。これは、LiMn_2O_4から電解液中へのマンガンイオンの溶出ならびにJahn-Teller効果による相転移がその原因といわれているが、はっきりしたことは明らかになっていない。本研究では、LiMn_2O_4の薄膜をレーザーアブレーション方で作製し、活物質自身の電気化学特性を明らかにした上で、電気化学走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いてリチウム挿入脱離反応に伴う電極表面形態変化を観察する。得られた知見を基にスピネルLiMn_2O_4の劣化機構の解明を行う。 本年度はレーザーアブレーションにより定比のLiMn_2O_4薄膜を作製し、1M LiClO_4を支持電解質として含む炭酸エチレン(EC)+炭酸ジエチル混合溶液中での充放電サイクル前後での表面形態変化をSTMでその場観察した。サイクリックボルタンメトリー、充放電測定の結果、得られた薄膜は粉末のLiMn_2O_4正極と同様のリチウム脱離挿入特性を示した。サイクル特性は粉末と比較すると良好ではあったが、初期容量116mAh/gから75サイクル後には109mAh/gに低下した。その場STM観察の結果、サイクル前の薄膜は400nmの結晶粒からなっていたが、20サイクル後あたりから表面が100nm程度の微小粒子で覆われた。この微小粒子は溶液中から析出して生成したと考えられ、容量低下の原因として単なるマンガンイオンの溶出だけでなく、溶出したマンガンイオンの再析出反応を考慮する必要があることが示唆された。
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