人工光合成型物質変換反応は重要視されている反応の一つである。申請者の研究室では水分子を直接の電子源とする可視光誘起の電子伝達反応を、高い酸化力を持つ高原子価金属ポルフィリン誘導体を使用することにより実現させた。酸化末端では共存するオレフィン類がエポキシ化された。水分子は電子源であるとともに酸素源としても機能している。この反応は今後のより一層の展開が期待されているが、そのためには反応のメカニズムの解明が不可欠である。しかし詳細なメカニズムには未解明の部分も多い。そこで本研究は上述した反応のメカニズムを解明することを目的とした。 はじめに反応を直接観測するための実験系の確立を行った。実験装日系としてレーザーフラッシュホトリシス系を構築した。マイクロ秒〜ミリ秒領域の反応を測定する際に問題となる光量の揺動は、モニター光のダブルビーム化により相殺した。また各装置をコンピュータにより集中制御した。その結果、微小な信号の正確な測定が可能になった。測定可能な時間レンジはピコ秒からミリ秒におよぶため、本研究以外の様々な研究にも有用な情報を与えている。 アンチモンポルフィリン誘導体を対象として、反応の観測を上述の実験装置を用いて進めた。反応の初期段階においては、反応の始状態と予想されていたポルフィリン励起3重項を確認した。また励起3重項状態からのプロトン解離を見出し、反応速度を算出した。次に様々な電子受容体を使い、励起3重項との電子移動過程を観測し、反応速度を算出した。次に電子移動過程後の活性反応中間体の観測を試みた。異なる対アニオンに対し異なる活性反応中間体が観測された。観測された活性反応中間体のうち1つはポルフィリンオキソ錯体と推測された。これらの結果は、実際の光反応で得られた推定反応機構を大粋で支持し、また未解明であった部分の解明に道筋を与えた。
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