コンビナトリアル有機金属化学堆積法(MOCVD)で、系統的に高効率に窒化物半導体薄膜を作製し、成長メカニズムに関する知見を得ることを目的に研究を行ってきた。本年度はウルツ鉱型GaNの結晶構造に着目して(c軸方向が非対称であるため極性をもつ)、GaN極性の同定と制御、極性が決まるメカニズムについて検討した。 MOCVDで作製したGaN薄膜の極性の同定には、非破壊で測定できる同軸型イオン散乱分光法(CAICISS)を用いた。c面サファイア基板を窒化処理することで、GaN表面は6角形ファセット(数10μm)となり、極性はN面(-c)となった。一方、窒化処理をしない基板上では、平坦な表面で、Ga面(+c)であることが明らかになった。 通常、サファイア基板上のGaN薄膜は、薄い(20nm)バッファ層を介して作製される。CAICISS測定から窒化基板上のバッファ層は、アニールすることにより、+cから-cの極性に変わった。この極性の変化は、バッファ層内部に+cと-cドメインが存在し、かつ表面が+cドメインに覆われているモデルを考えることで説明できた。つまり、アニールにより+cドメインが昇華して、-cドメインがバッファ層内に残るというモデルである。 バッファ層とGaN薄膜の極性の比較から、GaN薄膜の極性はアニールされたバッファ層の極性を引きずることが分かった。原料供給量比(Ga/N)を大きく変えても、この極性は変化しなかった。バッファ層とGaN層極性の系統的な結果から、GaNの極性は基板窒化、バッファ層のアニールによって制御できることを明らかにした。 極性の違いによってGaN薄膜の光学的、電気的特性が異なった。これは極性の違いにより、表面構造が異なり、成長中に取り込まれる不純物量の違いによるものと考えている。特に-cGaN薄膜は、不純物を取り込みやすい理論計算結果を得ている。
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