昨年度の研究では、少量のアセトニトリルを共溶媒として用いると超臨界二酸化炭素中(反応温度40℃、二酸化炭素圧力80Kg/cm^2)でも電解に十分な通電が得られることを見出し、本反応を用いて抗炎症剤イブプロフェン[2-(4-イソブチルフェニル)プロピオン酸]の合成にも成功した。今年度はさらに様々な出発物質から種々の抗炎症剤ならびにそれらの前駆体の合成を行った。相当する塩化ベンジルまたは芳香族置換臭化ビニルを基質として用いる超臨界二酸化炭素中での電解カルボキシル化では、抗炎症剤であるイブプロフェン、ナプロキセン、シクロプロフェンならびにそれらの光学活性体の前駆体を良好な収率で得ることができた。一方、相当するアリールメチルケトンを基質として同様の反応を行うと2-アリールプロパン酸構造を有する抗炎症剤の光学活性体の前駆体であるα-ヒドロキシカルボン酸を高収率で合成することができた。なかでも、ロキソプロフェンはその分子内に脂肪族ケトン構造を有しており、共存するケトンのうち芳香族ケトン部のみを化学選択的にカルボキシル化できるのは電解反応の特長を生かしたものといえる。これらの結果は、日本化学会題78春季年会において発表予定であり、今後学術論文として投稿する予定である。 一方、臭化ビニルの類縁体としてビニルトリフラートがあげられる。含フッ素化合物は超臨界二酸化炭素に高い溶解性を示すことが知られており、超臨界二酸化炭素中における電解カルボキシル化反応に都合の良い基質であると考えられる。そこで、超臨界二酸化炭素中で行う前に基礎的研究として常圧の二酸化炭素存在下でのビニルトリフラートの電解カルボキシル化を行った。その結果、基質の還元電位の違いにより2種の反応経路により反応が選択的に進行し、アルキル置換ビニルトリフラートからはβ-ケトカルボン酸が、フェニル置換ビニルトリフラートからはα、β-不飽和カルボン酸が得られることを見出した。本結果は種々の学会で発表を行い、現在学術論文として「Electrochimica Acta」誌で印刷中である。
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