遷移金属触媒存在下に水素、オレフィン、一酸化二窒素からアルコールを合成するプロセスを目指して、Rh、Ru、Pd、Niなど種々の後周期遷移金属錯体存在下にオレフィン類と一酸化二窒素-水素混合ガスとの反応を検討した結果、殆ど例外なく水素化反応のみが優先的に進行し一酸化二窒素の取り込みが殆ど起こらないことが明らかとなった。そこで水素雰囲気下においても一酸化二窒素に対して高い反応性を示すアルキル金属錯体の探索する必要が生じたので、典型有機金属反応剤も含めて金属炭素結合を有する化合物の一酸化二窒素に対する反応性を系統的に検討することを開始した。現在までに有機リチウム化合物及び有機マグネシウム化合物との反応を詳細に検討し、一部のリチウムアセチリドがケテンを選択的に生成することを見いだした。従来一酸化二窒素と有機リチウム反応剤との反応では炭素窒素結合生成反応が進行しジアゾタート化合物やヒドラジン誘導体などの混合物を与えることが知られているが、我々の用いた有機リチウム化合物では含酸素化合物が選択的に生成する。このことは電荷支配の反応と軌道支配の反応を使い分け、さらに中間生成物からの窒素分子の脱離反応をうまく制御すれば一酸化二窒素を一酸素原子添加剤として用いることが可能であることを示唆しており興味深い。本結果は一酸化二窒素を用いる触媒的炭素酸素結合生成反応の設計に対して重要な礎となる結果であり、今後の一酸化二窒素を用いる遷移金属触媒反応の開拓にむけて大きな指針を与えるものである。
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