研究概要 |
α,β-不飽和カルボニル化合物は、分子内にC=C結合、C=O結合といった二つの反応点を有することから、有機合成上重要な反応基質の一つとなっている。このα,β-不飽和カルボニル化合物を用いて不斉合成反応を行なうには、C=C結合もしくはC=O結合のエナンチオ面を識別して反応させなければならない。本研究では、このように有機合成上重要なα,β-不飽和カルボニル化合物の二つの反応点となるエナンチオ面を、光学活性ビスオキサゾリニルピリジン(Pybox)と[(p-cymene)RuCl_2]_2から生成するビスオキサゾリニルピリジンルテニウム[(Pybox)RuCl_2]フラグメントを用いて識別できるかどうかを検討し、最終的には不斉合成反応に展開することを目的としている。 α,β-不飽和カルボニル化合物が金属に配位する際、C=Cπ、C=0π、C=0σ型の3つの配位様式が考えられる。しかしながら、この(Pybox)RuCl_2フラグメントを用いることで、C=Cπ型の錯体種のみが選択的に生成することを見い出した。さらにX線結晶構造解析、ならびに各種の NMR測定(^1H、^<13>C、温度可変、NOE)から、配位したα,β-不飽和カルボニル化合物は、C=C結合のsi面で選択的に配位し、なおかつカルボニル部位のコンホメーションがs-transに規定されるという、高度に制御された状態であることを明らかにした。 また、得られたオレフィン錯体の一つであるアクロレイン錯体を用いて、カルボニル部位への不斉アルキル化反応を検討した結果、最高87%の不斉収率で対応するアルキル化体を得ることができた。さらに得られた生成物の絶対配置から、このアルキル化反応の面選択の機構についても検討を行なった。 今後は、この(Pybox)RuCl_2フラグメントを用いた、ラセミ体のスルホキシドの光学分割、ならびにスルフィドの不斉酸化反応などについて検討していく予定である。
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