今年度は、フェノール類の合成を検討した。フェノール誘導体は、高い活性を示す抗生物質やHIV活性を示すエイズ治療薬のリード化合物としても期待される化合物群である。まず始めにメトキシフェニルチオメタンを出発原料とし、ワンポット反応という手法を用いることによりフェノール類の合成を検討した。ワンポット反応という手法は複数の反応を一気に行う有機合成法であり、省資源・省エネルギー型有機合成反応の開発には非常に有効である。出発原料のメトキシフェニルチオメタンはクロロメトキシメタンとチオフェノールから容易に調製できることがわかった。これまでの合成法はジメトキシメタンとチオフェノールをモレキュラーシーブス存在下にて撹拌することで行っていたが、この方法では長時間の加熱が必要であった。一方、我々はチオフェノールのナトリウム塩を用いてこの反応を行うことでより短時間で反応を完結させることに成功した。この化合物を出発原料とし、ホルミル化、Robinson環化、脱離反応を行うことによりフェノールを合成することが可能である。続いて、これら一連の反応を素反応に分解し、個々の反応について最適化を行った。反応条件を種々検討したところ、Robinson環化・脱離反応はスムーズに進行し低収率ではあるものの目的とする化合物が得られた。 一方、最初の反応であるホルミル化は各種ホルミル化剤を用いたが、副生物が多く収率の改善は現時点では達成できていない。 来年度は、引き続きこれらの問題点に取り組むとともに、スルフィドをより脱離能の高いスルホンに変換し同様の反応を検討する予定である。
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