本環拡大反応を用いた中員環エーテルの合成では、エーテル酸素の隣接基関与によるビシクロオキソニウムイオンの生成、およびこのイオンに対する位置・立体選択的な求核剤の反応が不可欠である。本年度は、まず8員環エーテルの合成に焦点をあて、反応基質として3-(2-テトラヒド口ピラニル)プロビルスルホナートを合成し、中間体として考えられるビシクロ[3.3.0]型オキソニウムイオンの生成および求核剤との反応性を検討した。 メチルスルホニルオキシ基を脱離基とし、AcOH/H_2O混合溶媒中、Zn(OAc)_2を50℃で作用させると、8員環エーテルが主生成物として得られたことから、ビシクロオキソニウムイオンを中間体とする環拡大反応に成功した。この際、生成したオキソニウムイオンに対する求核剤の反応では、求核剤としてAcOHよりもH_2Oの方が位置選択性が高いこと、さらに室温下で選択性が向上することを見いだした。しかし、ルイス酸として作用するZn(OAc)_2を用いないと、スルホニルオキシ基の脱離性が低下し、隣接基関与によるビシクロオキソニウムイオンの生成が抑制されることがわかった。 そこで、より脱離能の高いクロロメチルスルホニルオキシ基を脱離基として反応条件を検討した結果、THF/H_2O混合溶媒中、室温下でルイス酸を用いなくても、8員環エーテルが高選択的に得られることを見いだした。しかし、さらに脱離能の高いトリフルオロメチルスルホニルオキシ基を有する化合物は不安定なため、反応基質とならなかった。 来年度は、本年度見いだした反応条件を用いて、本環拡大反応の立体選択性について検討する予定である。
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