本研究では、心臓の拍動のように、一定周期で自励的に振動する運動リズム機能を持った高分子材料(高分子ゲル)を設計することを目的とする。具体的には、ゲル相内部で自発的な酸化還元振動を生じる化学反応(ベローソフ・ジャボチンスキー反応、BZ反応)を起こし、膨潤・収縮の振動を生起するプロセスを分子回路として内包するゲルを設計・構築する。 これまでの研究より、以下の結果が得られた。(1)BZ反応の触媒として働く、ルテニウムビピリジン錯体(Ru(bpy)3)をモノマー化する合成手法を確立した。これにより、触媒をN-イソプロピルアクリルアミドに共重合したゲルを作製した。(2)触媒サイトの酸化還元状態変化によるゲルの膨潤・収縮変化を検討し、錯体の荷電の増加により膨潤度および相転移温度が上昇することを明らかにした。現在、触媒含有率の変化、種々のアクリルアミドポリマーとの共重合などによりゲルの化学構造を種々変化させ、触媒サイトの酸化還元によるゲルの膨潤収縮変化を詳細に検討している。(3)作成したゲル相内部でBZ反応を生起させ、その化学振動挙動を溶液中で生じるBZ反応と比較・解析した。その結果、溶液系とゲル系では振動濃度領域や振動プロフィールに大きな違いがあることが明らかにされた。現在、ゲルを反応場としたときの基質分布や拡散の寄与が振動反応のダイナミックスに及ぼす影響について検討している。以上の研究成果より、BZ反応の触媒を導入することによってゲルの自律振動を生み出す手法が確立された。そこでさらに、(1)大きな膨潤・収縮の振幅を生じ、アクチュエータとして利用したときに強い駆動力を生むことができるゲルの分子設計を行うこと、(2)ゲル相内部で生起した化学振動が、ゲルの巨視的な機械振動とどのようにシンクロナイズするかを詳細に解明することが必要とされ、今後の研究において推進すべき課題とされた。
|