高分子の主鎖上に何らかの手法によって炭素活性種を発生させることは、それを起点とする反応によって高分子の修飾・機能化を達成することができるため、機能性材料の創製においても重要な方法論の一つとして認識されている。本研究では、有機合成化学においても重要な反応中間体である金属カルベンに着目し、主鎖に金属カルベンを含有する新規有機金属高分子の合成を検討した。 具体的な合成法は、アルコキシカルベンとアミンとの縮合反応を利用して行った。すなわち、二官能性フィッシャー型アルコキシカルベンを常法により合成し、これと種々のジアミンとの重縮合を検討した。二官能性のアルコキシカルベンとしてCH_3OC[W(CO)_5]-p-C_6H_4C(CH_3)_2-p-C_6H_4-C[W(CO)_5]OCH_3を用いた場合、ヘキサメチレンジアミン、プロパンジアミン、エチレンジアミン、あるいはp-キシリレンジアミンなどの種々の一級アミンとの重縮合がすみやかに進行し、対応するポリマー(分子量8000程度)が得られることを見い出した。生成ポリマーは空気中で十分に安定であり、その構造もNMRおよびIRによって確認した。 モノマーの構造はその重合反応に大きく影響をおよぼした。例えば、カルベン炭素のオルト位にアルコキシ基を導入した場合、生成ポリマーの分子量が低下することが分かった。また、カルベン炭素間のスペーサーが柔軟な置換基の場合、分子内環化反応が併発することが分かった。
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