本年度は前年度に引き続き、ラジカル重合における、成長ラジカルの酸化還元電位を測定するための研究として、主として、2つの方向からのアプローチを行った。 一つ目は成長ラジカルの反応の制御や変換を通して、間接的に酸化還元電位を見積ろうとするもので、前年度から引き続き、実際に高分子合成を行ってデータを収集した。 ハロゲン化アルキルを開始剤とし、1価のハロゲン化銅を触媒量添加して、80℃から110℃くらいの高温で、スチレンやメタクリル酸エステル類の重合を行うと、分子量の揃った高分子が合成できる。この重合系を電子スピン共鳴分光(ESR)法で、観測し、どう錯体の構造と反応性との関連について検討した。 また、この重合反応が、成長ラジカルと銅錯体との酸化還元反応によって制御されていることを明らかにし、ラジカル重合禁止剤となる2価の塩化銅や臭化銅との酸化還元電位の差についても検討した。これらの結果はIUPACの高分子科学部会の討論会やアメリカ化学会等で発表し、アメリカ化学会での発表は本年度に出版される。 二つ目は直接成長ラジカルの酸化還元電位を測定するための準備実験で、手法としては、ESR法と定電流電解とを組み合わせて行おうと考えておこなった。定電位電解セルは既にいろいろな種類のものが知られているが、定電位電解セルはほとんど例がない。ら旋状の金を作用極とし、対極と参照極とに白金線を用いて新規電解セルを作成し、実験を行った。まだ、試作段階で、十分な結果は得られていないが、データが得られれば、ラジカル反応を初めとする基礎化学の様々な分野で応用可能なため、今後も研究を続ける。
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