有機分子の吸着は基板からのエピタキシャルな影響と有機分子間の相互作用(自己組織力)とのバランスで吸着構造は決定されている。近年申請者らは比較的吸着力の弱い基板を選択すると溶液からの吸着という非常に簡便な手法でさまざまな有機分子から高度に配向した二次元分子膜を自己組織的に作製できることを見出した。さらに分子膜中の分子形状や吸着高次構造を溶液中で高解像度に走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて観察することに成功している。本研究では多成分系の分子膜及び分子間の相互作用に注目し研究を行い、以下の成果を現在までに得ている。 1) 気液界面を利用したフラーレンエピタキシャル分子膜の作成 気液界面に展開したフラレーン分子膜を単結晶金表面に移し取ることによりエピタキシャル薄膜が作成できることを明らかにした。C60だけではなく、C70及び混合膜においても蒸着により作成されたものと本質的に同様なエピタキシャル薄膜が作成できた。混合膜においては、C70がC60の格子の間に立って配列している様子が溶液中のSTM観察により明らかとなった。 2) ホスト・ゲスト反応の直接観察 吸着を利用したシクロデキストリン類の配向固定化を検討した。基盤の選択及び電極電位の設定による吸着力と自己組織力の適当なバランスを設定すると、金属単結晶表面でシクロデキストリンが自己組織化しチューブ状の構造を作ることが明らかとなった。ポリロタキサンにおいても観察されているチューブ状の構造が包接されるポリマーなしに生成したことは、制御した吸着をうまく利用することで、分子の自己組織化を誘起できることを示しており、隣接するシクロデキストリンの水酸基同士による水素結合がその駆動力であることを明らかにした。
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